2022年12月29日(木)

お弁当箱をごみに出してしまった。

 

その日は燃えるごみの日だった。年末も近いのでそろそろ最終の収集日が近づいている。出し忘れないようにとリマインダーもかけて、朝、出勤のタイミングでごみをまとめた。先週出し忘れたせいで2袋分あり、かさばって重かった。

私はその日のお昼に食べるお弁当を保温バッグにつめ、リュックを背負い、ごみ袋2つを引っ掴んで家を出た。こういうとき、うっかりお弁当バッグを玄関先に置いて家を出てしまうことが多々あるので、忘れないぞ、忘れないぞと意識してお弁当バッグを掴んだ。

家を出てすぐのところにごみ捨て場がある。私は右手で引戸を開け、左手に掴んでいたごみ袋2つを放り込んだ。引戸を閉め、やれやれミッションコンプリートだと一息つき、駅に向かって歩き出した。寒いので両手をポケットに突っ込んだ。そして気づいた。あれ?お弁当……

 

家に忘れた?持って出なかったっけ?あーあ、今家に戻ったら電車逃すよなぁ。あー面倒だな。今日の夕飯にしよう。冬だし家の玄関は激寒いから腐ったりしないだろう。お昼は会社近くのラーメン屋でも行こうかな……。そう思って駅に向かい、電車に乗った。

 

家に帰ってきたらお弁当バッグはなかった。家中どこを探してもなかった。家にないなら、可能性としてはごみ捨て場しかない。私はごみ捨て場を探してみた。ごみは一つ残らず回収されており、青色のお弁当バッグなどどこにも見当たらなかった。

 

もうこの感じだと、私はごみ袋と一緒にお弁当バッグを掴んでいて、ごみ捨て場に放り込んだとしか思えない。そんな馬鹿なことするか?普通……そもそもごみ袋2つを左手に持ってるのに、それに加えてお弁当バッグまで握れるのか?物理的に。だとしたら私の右手は暇してるじゃないか。何をしていたんだ?右手。あ!玄関の鍵を閉めたりエントランスのドアを開けたり、家の鍵をリュックにしまったりごみ捨て場の引戸を開けたりしていたか。あ?本当に?私はお弁当バッグをごみに出したのか?本当か?

 

私は子供時代にトイ・ストーリーをめちゃくちゃ見て育った(兄が好きだったから)。おもちゃが捨てられた悲しみにうちひしがれ、ベルトコンベアで焼却炉にゆっくり近づいていく恐怖に怯えて抱きしめあったり手を握りあったりしている様子にトラウマを植え付けられた身としては、こういうときお弁当箱たちの絶望を考えていてもたってもいられなくなる。

私はベッドにうつ伏せになって、お弁当箱たちの悲鳴を想像する。おいしいおかずを詰められて、さぁ今日のお昼も美味しく食べてもらうぞと待っていたのに、ごみ捨て場に放り込まれ、収集車に乗せられ、可愛いお箸セットとサーモスの保温ポットと数日分残っていた低用量ピルと一緒に暗くて臭い収集場に運び込まれる。みんなバラバラになりそうなところを、手を握りあってなんとか堪える。でも最終的に行き着く先は燃える火の中。

 

ああああ!なんてことをしてしまったんだ!!!!

 

一生分の後悔かもしれない。「疲れてたんだ、しょうがないだろ」とかじゃ済まされない。そもそもやってしまったのは朝なんだからまだ疲れてもいない。可哀想に。お箸セットに至ってはまだ買って2ヶ月しか経っていない。魔女の宅急便のジジが描かれた可愛いお箸とスプーンのセット。サーモスの保温ポットは煮物とかお味噌汁とか入れるのに便利だったのに。お弁当箱は高校生のときに買ったアフタヌーンティーのタッパータイプのお弁当箱で、マトリョーシカみたいに小さい箱が何個も中に入ってるやつの一番おっきい箱。あー、あーあーあーあーあー

 

あーあ、あーもう。あーーやったよ、いつもこういうことする。あーあ。なんかもーやんなっちゃったよ。あー、勘弁してよ。

あーあ、大掃除まだしてないけど捨てなくていいもの捨てちゃったよ。あー、おかしいだろ。もうー助けてくれ。この馬鹿野郎をどうにかしてくれ。

 

あーごめん。ごめんよ皆。